運転の楽しさを、200万円を切る価格で。そこが「スズキ・スイフトスポーツ」の真骨頂だ。2017年にフルモデルチェンジを受けて発売された全長約3.9メートルのコンパクトな4ドアハッチバックだ。 3代目になるこのモデルのおもしろさは、いってみれば異色ぶり。ミニバンとかSUVばかりが売れる昨今、6段マニュアル変速機を備え、”ファン・トゥ・ドライブ性”を前面に押し出している。 どこが楽しいか。ひとつは1.4リッターエンジン。意外なほどパワフルで、しかもターボ感がなく、低回転域から高回転域まで気持ちよく回る。 103kW(140ps)の最高出力を5500rpmと比較的下のほうで出すのも特徴的だ。日常的に6000rpmまで回すひとはそういないということで、扱いやすさを重視したのだろう。 おかげで、2500rpmから3500rpmで 230Nmという最大トルクの設定とともに、3000rpm を少し超えるぐらいでエンジンを回して走らせる気分のよさはばつぐんだ。 楽しさのもうひとつは、マニュアル変速機。6段オートマチックの設定もあるけれど、あえて6段マニュアル。 ギアのゲート感がややあいまいで「もう少しすっと入ると言うことないのになあ」とか、望みを言えばきりがないが、すばやいシフトワークなどを練習すれば、運転するのが喜びになるはずだ。 マニュアル変速機の5速と6速は燃費を考えてギア比が高めの印象だ。それでもぼくの体験では、東名高速道路のゆるい上り坂で6速でアクセルペダルを軽く踏み込むとクルマは気持ちよく加速した。うれしい驚きだった。 速く走りたいドライバーを楽しませようと目的が明確なところは、ハッチバックの姿をしたスポーツカーと言いたくなる。前席のシートは大ぶりのバケットシートというのもクルマ好きを喜ばせてくれる。 いま運転が楽しめるスポーティーなハッチバックというと、「シビック・タイプR」(450万360円/税込み)が筆頭だろうが、スイフトスポーツ(183万6000円/同)と比較すると高すぎる。 マニュアル変速機の楽しさという点では「シビック・ハッチバック6MT」(280万440円/同)や、よりスポーティーなモデルとして「スバル WRX STI」(386万6400円/同)なども見つかるが、やはり価格差が厳然と存在する。 スイフトスポーツを“気軽に”と表現しては語弊があるけれど、老いも若きもクルマ好きにとってこの価格は“バリュー・フォー・マネー”だ。 スタイリングも、個性的な変形ヘッドランプに大型エアダムを持ちながら、全体のプロポーションもよい。なにか言い訳しながら乗る必要がない。 スイフトスポーツに乗って、かつての「プジョー 205GTI」を連想したという、ぼくの知人もいる。かつて高い人気を誇ったフランス製のホットハッチ(高性能ハッチバック車)だ。 精神的に豊かになれる。それがホットハッチの魅力だとぼくは思っている。だから連綿とこのジャンルには新車が投入されるのだ。スイフトスポーツはとてもよく出来たホットハッチの“ニューカマー”である。
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